計4,800例超の人工膝関節置換術を実施
変形性膝関節症は、軟骨が減少することにより膝関節の機能が低下する病気で、半月板断裂や筋力低下、加齢、肥満などがきっかけになると言われている。
日本国内における患者数は700万人とされ、中高年齢層の女性に圧倒的に多い。「年だから」と年齢のせいにしてあきらめたり、我慢したりするケースが多いが、放置しておくと膝関節の変形が進み深刻な問題となる。生活の質を大きく左右する病気でもあるのだ。
「特に、骨粗鬆症などで骨が弱くなった女性に強く現れ、膝が曲がらなくなるだけではなく、膝に水がたまったり、階段昇降も困難に。次第に外出するのも億劫になり、家に閉じこもるようになります」と八木医師は警鐘を鳴らす。
通常、膝関節の表面は軟骨で覆われ、この軟骨と膝関節に挟まれた半月板がクッションの役割を果たし、外的衝撃を和らげるとともに、関節の動きを滑らかにしている。しかし、長年膝を使い続けると軟骨がすり減ったり、半月板が部分的にすり切れたりする。これが膝の痛みの原因だ。
初期の段階では膝周囲の筋力強化やサポーターによる保護、足底板装具、ヒアルロン酸製剤の関節注射などで治療。「最近では今まで以上の高分子量のヒアルロン酸により、効果が長持ちする」(八木医師)。しかしこれらの治療でも改善しない場合は、何らかの手術療法が必要になる。
人工膝関節置換術は医師の技術や判断力が左右
変形性膝関節症に対する手術は、関節鏡下による関節内廓清、高位脛骨々切り術、人工膝単類置換術、全人工関節置換術などがある。「年齢や進行度により治療法が異なり、検査の結果を参考に決定しますが、関節軟骨がすべて失われた人には人工膝関節置換術を勧めます」と八木医師。「一人で外出できなくなった」「後ろ向きにならないと階段が降りられない」「今まで効いていた関節注射が効かなくなった」という状態が手術を考えるタイミングと教えてくれた。
人工膝関節置換術は、壊れた関節部分を切除し、人工関節をはめ込む手術。傷んだところだけを置換する人工膝単類置換術と、膝関節すべてを置換する全人工関節置換術とがある。人工関節を骨にぴったりと合わせるために手術前に関節の大きさを計測した後、手術中に様々な計測器や道具を使用して骨の角度、関節の軸、動き、緩みを計測。骨を切った後に人工関節を骨に固定するには、骨セメントと呼ばれるプラスチックの樹脂で人工関節を骨に接着して固定する方法、人工関節の骨に接する面に細かい突起をつけそれに骨を誘導して骨セメントを使わず、固定する方法などがある。執刀を担当する医師の技術や判断力、つまり経験や実績が問われる手術なのだ。
八木医師は、「従来の人工関節に比べ、膝の曲がりがいい、耐久性があるなどの特長があり、より自然な膝の動きを再現できる」というモバイル型と呼ばれる人工関節を使用。累計4,800件超の人工膝単類置換術を実施する。院内に設けた「人工膝関節ラーニングセンター」には八木医師の手術手技を見学するために全国各地から整形外科医が訪れるほどだ。
痛みは我慢せず、早めの対策で進行を抑制
とは言え、できれば手術を避けたいという人も多いはず。「肥満や重労働の人がなりやすい病気。肥満の人は減量を心がけ、膝を支える筋肉を保つために適度な運動を続ければ進行を抑えることができます。また痛みがある場合は我慢せず、早めに整形外科を受診することをおすすめします」と八木医師は語る。