今や主流となった2束前十字靱帯再建術を考案・開発
前十字靱帯(ACL)は膝の中央にある靭帯で、脛骨が大腿骨よりも前方へ移動しないように、あるいは回旋し過ぎないように制御する役割を担っている。しかし、ジャンプをして着地をするなどの際に大きな負担がかかり、靱帯が伸びることがある。これが前十字靱帯損傷あるいは前十字靱帯断裂というケガだ。
症状は膝がガクッとなったり、外れた感じがすることだ。これは一般的に「膝崩れ現象」と言う。また、受傷後は痛みと腫れが起きるのが一般的だが、1週間から2週間程度で収まり、その後は日常歩行に支障はなくなる。しかし、靱帯は一度伸びると元には戻らず、伸びたまま生活することで膝に不安定感が残り、さらに膝が外れる感じが慢性的になる。
そのため競技を続けると膝崩れ現象が頻繁に起き、関節のクッション役を担う半月板がすり切れてしまう。これによって半月板損傷(断裂)に発展することも多く、併発している人も少なくない。
八木整形外科病院の安田和則名誉院長兼附属スポーツ医学・関節鏡センター長は「バレーやバスケット、サッカー、体操、スキーなどジャンプをしたり、膝に負担がかかるスポーツ競技者に多いが、前十字靱帯損傷はあらゆるスポーツで生じる障害です。保存療法もありますが、選手として復帰を望む場合は靱帯再建術が必要です」と語る。
国内はもちろん世界にも有名な権威
安田名誉院長は北海道大学医学部を卒業後、文部省在外研究員として渡米。米国Vermont大学整形外科で、スポーツ医学を中心に研さんを積んできた。
北海道大学に復帰した後は、大学院医学研究科運動機能再建医学分野教授などを経て、2013年には北海道大学理事および副学長に就任。そして2017年4月に医療法人知仁会八木整形外科病院に名誉院長兼附属スポーツ医学・関節鏡センター長として着任した。
スポーツ医学および膝関節外科が専門で、国際関節鏡・膝関節外科・整形外科スポーツ医学会(ISAKOS)の正会員(元理事)。国際ACL Study Group 名誉会員やアジア太平洋膝・関節鏡・スポーツ医学会(APKASS)理事なども務めている。さらに、日本を代表するスポーツ医学学会の1つである「第6回日本関節鏡・膝・スポーツ整形外科学会(JOSKAS)」(2014年開催)において、Masaki Watanabe Award(国際賞)を受賞。この国際賞は、関節鏡・関節鏡視下手術で国際的に高く評価されている医師に与えられる賞であり、安田名誉院長は日本人で2人目の受賞者。国内はもちろん、膝関節の世界的権威といえる。
半月板縫合術も実施
その安田名誉院長が2000年に開発したのが膝前十字靱帯損傷に対する「関節鏡視下解剖学的2束前十字靱帯再建術」。2004年に世界に向けて発表し、2010年には遺残したACL組織を温存する関節鏡下手術に発展させている。
解剖学的2束前十字靱帯再建術とは、前内側線維束と後外側線維束という2つの線維束でできている前十字靱帯を両方とも再建する術式だ。安田名誉院長が同術式を開発するまでは、どちらか1つを修復する一重束法しかなかったが同術式をおこなうことにより膝の安定性を極めて高めることができる。そのため今やこの術式が国内の主流。安田名誉院長自身も数多くの手術をおこなっている。
また「損傷してすぐであれば靱帯を切除せず、術後の治癒を早める先端手術もおこなっています」と安田名誉院長。半月板損傷に対しては機能を損なうことがない先端の「半月板縫合術」も実施している。