子宮内膜症に対する腹腔鏡手術を 年間200超実践
子宮内膜症とは、本来子宮の内側にしか存在しない子宮内膜やそれに似た組織が子宮以外の場所で増殖する疾患で、生理痛がひどくなるなどの症状が見られ、気づく人が多い。
症状はそのほか、腰痛や排便痛、性交痛などにもおよび、日常生活に支障を来すこともある。卵管や卵巣に癒着すると、妊娠のためには体外受精などの治療が必要になることも少なくない。
この子宮内膜症は、女性ホルモンであるエストロゲンの影響を受ける女性特有の病気で、20代、30代と年齢が上がるほどに増加。40代がピークとなり、排卵を繰り返すことで増悪する。
「子宮内膜症は、重症化すると直腸や膀胱、尿管にまで至るケースがあります。卵巣にできた子宮内膜症であるチョコレート嚢胞はがん化の可能性もあり、もっとも注意の必要な子宮内膜症です」と教えてくれたのは、手稲渓仁会病院の和田真一郎産婦人科部長だ。
早期の社会復帰も可能な腹腔鏡手術
手稲渓仁会病院産婦人科には、和田部長を含め13人の専門医が在籍。子宮内膜症、悪性腫瘍などの他、産科、生殖医療など産婦人科領域の疾患をすべて網羅する第一人者が在籍している。
手術件数も豊富で、2013年度は計1400件。このうち腹腔鏡・子宮鏡による内視鏡手術は1000件にもおよんでいる。和田部長は「病巣の萎縮を狙い、避妊に使われるピルやジエノゲストなどの薬で排卵を抑えるのが子宮内膜症の進行を抑えるのに有効です。しかし、薬が使えないなどの理由により、手術を行う場合、腹腔鏡手術は優位性があります。当院では年間206件(2013年)の子宮内膜症手術を実施し、そのほとんどを腹腔鏡で行っています」と語る。
子宮内膜症の病変は主に骨盤腔の深くにある。せまい空間でも手術ができる腹腔鏡がもっとも威力を発揮する。しかも、5ミリ程度の小さな4カ所の穴から、カメラで観察して実施。お腹の中を直接手で触れないので術後の癒着も少ない。高い技術力が必要とされるが、同院では15年以上前から導入。十分なトレーニングを行い、手術を実践している。
「当院では術後2日目に退院する方がほとんど。早期の社会復帰も可能です。また仙骨子宮靱帯や直腸膣中隔に内膜症によるしこりができるものを深部子宮内膜症と呼びますが、この硬いしこりを取るのにも有効です。当院では2013年は深部子宮内膜症に対する33件の手術を行い、難治性の疼痛の軽減にも取り組んでおります。」と和田部長は自信を見せている。
難治性の高い不妊症治療にも尽力
子宮内膜症は、卵管や卵巣の癒着、およびチョコレート嚢胞の治療に伴う卵巣機能の低下により、不妊症の原因の一つとなる。チョコレート嚢胞のケースでは、妊娠を望む患者に対し、妊娠する能力をなるべく温存するように配慮。反対に妊娠を希望しない場合には子宮や卵巣を摘出する手術も行う。
また同院では、補助生殖医療にも積極的で、難治性の不妊症治療にも力を注いでいる。体外受精による良質な受精卵を子宮に戻してもなかなか妊娠しない人には、レーザーを用いた胚の透明帯切開も導入し、妊娠率の向上につなげている。