「認知症」に進行させないためにはMCIの早期発見・早期治療
MCIとはMild Cognitive Impairmentを略したもので、日本では「軽度認知障害」と言われる。正常な脳の状態と認知症の間のグレーゾーンに位置し、記憶力や注意力などの認知機能は低下しているものの、日常生活に支障をきたすほどではない状態だ。認知症予備軍とも言われる。
一方、認知症とは脳の神経細胞に障害が起き、生活に支障が出ている不可逆性の状態のこと。記憶力や判断力が低下するほか、それまでできていたことができなくなるなど、さまざまな症状が起きる。
各種の調査で「なりたくない病気」の第1位になることが多く、その理由として「家族に迷惑がかかる」「大切なことを忘れてしまう」などが挙げられている。しかしながら、日本国内では65歳以上の5人に1人、85歳以上の2人に1人が認知症に罹患。OECD(経済協力開発機構)に加盟している38カ国のうち、日本は最も高い有病率となっている。
適切な治療をすることで認知症を回避できる
MCIは認知症の前段階で、そのまま進行すると数年後に認知症に移行する。しかしMCI期に適切な治療を行うことで、正常な状態に戻ることもある。厚生労働省の資料によると、MCIは1年で約5〜15%の人が認知症に移行し、約16〜41%の人が健常な状態になることがわかっている。つまり、認知症を回避するには、MCIを早期に発見して治療することなのだ。
MCIの原因は、脳波異常やビタミンB群の欠乏、内分泌異常、精神的ストレスなど。MCI(あるいは認知症)をチェックするには、問診やチェックシートを行って認知機能の低下を調べることなどが一般的だ。しかし「血液・生化学・尿などの検査のほか、脳画像や脳波診断を駆使した精密な診断が重要です」と話すのが千葉茂医師だ。
特に脳波診断により認知症の鑑別診断を行う医師は全国に15人程度とされ、千葉医師はその一人。「刻一刻と変化する脳機能がリアルタイムで把握できるため、MCIの鑑別診断に役立ちます。一般的な検査では正常と診断される場合でも、脳波から異常と判断できる場合もあるため、誤診も少ないです」とその有用性を語る。
質の良い睡眠をとることで原因物質が排泄
MCIから認知症への進行を回避する重要なポイントは睡眠だ。「認知症の原因疾患の一つであるアルツハイマー病は、脳内にアミロイド・ベータ(Aβ)が蓄積することが原因です。睡眠不足の場合、Aβが脳内に蓄積され、反対に質の良い睡眠をしているとAβは脳内から排出されます」と千葉医師。
特に気をつけたいのは睡眠の長さよりも質だ。朝に日差しを浴びること、日中に適度に運動することなどで熟眠感を得られる。ほかには、他人とコミュニケーションを積極的に取ったり、野菜を中心にした食生活を心がけるなども認知症予防には有効とされる。
こうした知識を適切に持つことで、「なりたくない病気」である認知症は回避できる。「糖尿病などの生活習慣病があると認知症の発症リスクも高まります。認知症予防のためにも、睡眠のとり方からライフスタイルを改めて見つめて欲しい」と千葉医師は訴えている。