認知症

Dr. Shigeru Chiba

千葉 茂(ちば しげる)医師

勤務病院森山病院 心療内科・すいみん外来部長

MCIの早期発見・早期治療で認知症を回避

脳波検査により認知症(MCI)の鑑別診断を実施

厚生労働省によると、2030年の認知症患者数は推計523万人。高齢者の14%を占める。しかし、2014年度の調査に比べると、3割程度下回っている。これは予備軍であるMCI(軽度認知障害)から認知症に進行する割合が、低下すると見込まれているからだ。 つまり予備軍であることを適切に把握することで、認知症を回避することができる。その有効な手段となるのが脳波検査を重視した鑑別診断だ。全国には15人程度しかできる医師はおらず、その一人が千葉茂医師だ。

(撮影日 2025年1月10日)

「認知症」に進行させないためにはMCIの早期発見・早期治療

 MCIとはMild Cognitive Impairmentを略したもので、日本では「軽度認知障害」と言われる。正常な脳の状態と認知症の間のグレーゾーンに位置し、記憶力や注意力などの認知機能は低下しているものの、日常生活に支障をきたすほどではない状態だ。認知症予備軍とも言われる。

 一方、認知症とは脳の神経細胞に障害が起き、生活に支障が出ている不可逆性の状態のこと。記憶力や判断力が低下するほか、それまでできていたことができなくなるなど、さまざまな症状が起きる。

 各種の調査で「なりたくない病気」の第1位になることが多く、その理由として「家族に迷惑がかかる」「大切なことを忘れてしまう」などが挙げられている。しかしながら、日本国内では65歳以上の5人に1人、85歳以上の2人に1人が認知症に罹患。OECD(経済協力開発機構)に加盟している38カ国のうち、日本は最も高い有病率となっている。

適切な治療をすることで認知症を回避できる

MCIは認知症の前段階で、そのまま進行すると数年後に認知症に移行する。しかしMCI期に適切な治療を行うことで、正常な状態に戻ることもある。厚生労働省の資料によると、MCI1年で約515%の人が認知症に移行し、約1641%の人が健常な状態になることがわかっている。つまり、認知症を回避するには、MCIを早期に発見して治療することなのだ。

 MCIの原因は、脳波異常やビタミンB群の欠乏、内分泌異常、精神的ストレスなど。MCI(あるいは認知症)をチェックするには、問診やチェックシートを行って認知機能の低下を調べることなどが一般的だ。しかし「血液・生化学・尿などの検査のほか、脳画像や脳波診断を駆使した精密な診断が重要です」と話すのが千葉茂医師だ。

 特に脳波診断により認知症の鑑別診断を行う医師は全国に15人程度とされ、千葉医師はその一人。「刻一刻と変化する脳機能がリアルタイムで把握できるため、MCIの鑑別診断に役立ちます。一般的な検査では正常と診断される場合でも、脳波から異常と判断できる場合もあるため、誤診も少ないです」とその有用性を語る。

 

質の良い睡眠をとることで原因物質が排泄

 MCIから認知症への進行を回避する重要なポイントは睡眠だ。「認知症の原因疾患の一つであるアルツハイマー病は、脳内にアミロイド・ベータ(Aβ)が蓄積することが原因です。睡眠不足の場合、Aβが脳内に蓄積され、反対に質の良い睡眠をしているとAβは脳内から排出されます」と千葉医師。

 特に気をつけたいのは睡眠の長さよりも質だ。朝に日差しを浴びること、日中に適度に運動することなどで熟眠感を得られる。ほかには、他人とコミュニケーションを積極的に取ったり、野菜を中心にした食生活を心がけるなども認知症予防には有効とされる。

 こうした知識を適切に持つことで、「なりたくない病気」である認知症は回避できる。「糖尿病などの生活習慣病があると認知症の発症リスクも高まります。認知症予防のためにも、睡眠のとり方からライフスタイルを改めて見つめて欲しい」と千葉医師は訴えている。

(更新日 2025年1月9日 )

ドクターの略歴、活動内容

千葉 茂(ちば しげる)

プロフィール
1979年3月
旭川医科大学医学部卒業(第1期生)
1979年5月
医師免許証取得
1984年6月
同大大学院博士課程(生体情報調節系)を修了、
医学博士の学位を取得

1984年7月

旭川医科大学医学部精神医学講座助手
1987年4月
同大医学部附属病院講師

1989年8月

同大医学部精神医学講座講師
1992年6月
カナダのブリティッシュ・コロンビア大学留学(~1993.3.31)
(文部省長期在外研究員としててんかんの研究)

1993年4月

同講座 助教授

1997年9月

同講座 教授

2011年7月

学長補佐(メンタルヘルス担当)兼務
2020年3月
同講座 教授退職

2020年4月

旭川医科大学名誉教授の称号授与。
旭川医科大学医学部精神医学講座客員教授(~2021.3.31)
医療法人慶友会吉田病院学術顧問(~2023.3.31)

2023年4月

社会医療法人元生会森山病院心療内科・すいみん外来部長
現在に至る
資格
  • 日本精神神経学会専門医
  • 日本てんかん学会専門医
  • 日本睡眠学会総合指導医
  • 日本老年精神医学会認定専門医
  • 日本臨床神経生理学会専門医(脳波分野)
  • 日本医師会認定産業医
備考
  • 1999年 日本てんかん治療研究振興財団 研究褒章
  • 1999年 北海道医師会賞
  • 1999年 北海道知事賞
  • 2024年 日本てんかん学会功労賞

森山病院

〒078-8392
北海道旭川市宮前2条1丁目1番6号